RAG を用いた独自ナレッジベースの作り方 (2025-10)
社内独自ナレッジベース構築に関するやり取り
ユーザーの最初の質問:
社内の独自ナレッジベースを作りたいと考えています。 生成 AI に質問したら色々と教えてくれて、何かしらの方法で情報更新もできる仕組みを作りたいです。 どういうシステム案がありますか
AIの回答(システム案の提案):
社内独自ナレッジベースを生成AIで実現するシステム案として、現在最も一般的で効果が高いのは RAG (Retrieval-Augmented Generation: 検索拡張生成) を基盤としたシステム
RAG は、最新の社内データに基づいて回答を生成できるため、生成 AI (大規模言語モデル、LLM) の 「知らないこと」 や 「ハルシネーション (誤情報)」 のリスクを低減しつつ、自然な対話形式での情報検索と回答生成を実現できる
RAGシステム構成案
RAGシステムは、主に以下のコンポーネントで構成される
コンポーネント名役割情報更新の仕組み
ナレッジベース (データソース): PDF、Word、Excel、社内Wiki、議事録など、回答の元となる社内文書を格納します。既存のファイルサーバー、クラウドストレージ、または専用のドキュメント管理システムにファイルをアップロードすることで更新します。最も重要な情報更新の起点です。
インデクサ・ベクトル DB: ナレッジベースの文書をAIが検索しやすいようにベクトル(数値データ)に変換して格納します。新しい文書の追加・既存文書の更新・削除を検知し、インデックスを再構築または更新します。これにより、AIは常に最新の情報を参照可能になります。
生成AI (LLM): ユーザーの質問と、検索で取得した関連文書を基に、自然な文章で回答を生成します。OpenAIのGPTやClaude、またはオープンソースのLLMなど、クラウドサービスやオンプレミスで利用します。
ユーザーインターフェース (UI): ユーザーが質問を入力し、AIからの回答を受け取るためのインターフェースです。(例:チャットボット、Webアプリ)既存の社内ポータルやTeams、Slackなどのチャットツールと連携させることも可能です。
🔄 情報更新とAIの連携の仕組み
質問者がAIに質問すると、以下のようなプロセスで回答が生成されます。
質問のインデックス化と検索(Retrieval: 検索)ユーザーがUIで質問を入力します。質問もベクトルに変換され、ベクトルDB内で意味的に最も関連性の高いナレッジベースの文書(チャンク)が検索・抽出されます。
回答の生成(Augmented Generation: 拡張生成)抽出された関連文書とユーザーの質問がセットで**生成AI(LLM)**に渡されます。LLMは、自らの学習済み知識ではなく、渡された最新の社内文書の内容だけを根拠として、分かりやすい回答を生成します。
回答の表示: 生成された回答と、その**根拠となった社内文書の参照元(ファイル名やページ)**がユーザーインターフェースに表示されます。
この仕組みにより、ナレッジベース(データソース)が更新されると、インデクサがベクトルDBを更新するため、生成AIは特別な再学習なしに最新の情報に基づいて回答できるようになります。
💡 RAG導入のメリットと考慮点
メリット最新・正確な回答: 社内ナレッジベースの最新情報を参照するため、AI単体よりも正確で信頼性の高い回答が得られます。ハルシネーションの低減: 参照元(根拠)を示すため、誤情報のリスクを減らせます。セキュリティ: 社内データをLLMの学習に利用せず、検索・参照のみに使うため、情報漏洩のリスクを抑えやすいです。導入コスト: LLMのモデル自体をカスタマイズ(ファインチューニング)するよりも、技術的ハードルやコストを抑えてスモールスタートしやすいです。考慮点ドキュメントの品質: 参照元のドキュメントが古かったり、重複していたり、整理されていなかったりすると、AIの回答精度が低下します。事前にドキュメントの整理・棚卸しが重要です。インデクサの整備: 多様なファイル形式(PDF、画像など)に対応し、文書を適切に分割(チャンキング)してベクトル化する仕組みの構築が必要です。運用体制: 継続的にナレッジベースの情報を最新に保ち、AIの回答精度をチェック・改善する運用体制が必要です。
ユーザーの次の質問:具体的なアーキテクチャを考えてください
AIの回答(具体的なアーキテクチャ案の提案):
具体的なアーキテクチャとして、クラウドサービスを活用したRAG (Retrieval-Augmented Generation: 検索拡張生成) ベースのシステムを提案します。このアーキテクチャは、スケーラビリティ、セキュリティ、および管理の容易さに優れています。
💡 RAGシステム・アーキテクチャ案基本的な構成は、以下の3つのフェーズと主要なコンポーネントに分かれます。
1. データインジェスト (情報登録・更新) フェーズこのフェーズは、社内ナレッジをAIが参照できる形にする工程です。コンポーネント役割情報更新の方法データソース (ナレッジベース)社内文書(PDF、PPTX、DOCX、Markdown、HTMLなど)を格納する場所。既存の社内ファイルサーバーやクラウドストレージ (例: Amazon S3, Azure Blob Storage, Google Cloud Storage, SharePoint) にファイルをアップロード・更新・削除します。これが更新の起点となります。データパイプライン / インデクサ新規または更新されたファイルを検知し、処理します。定期的なスケジュール実行や、ファイル変更時のイベントトリガーで自動実行します。埋め込みモデル (Embedding Model)文書を細かく分割(チャンキング)し、その内容を表現する**ベクトル(数値の並び)**に変換します。LLMとは別の専門モデルを使用します。ベクトルデータベース (Vector DB)変換されたベクトルと、その元となった文書の参照元情報を格納します。AIが意味的な検索を行うための核となります。(例: Amazon OpenSearch Service, Pinecone, Weaviate, Milvusなど)
2. 検索・生成 (RAG) フェーズユーザーの質問に対し、回答を生成する核となるプロセスです。コンポーネント役割ユーザーインターフェース (UI)ユーザーが質問を入力する場所。(例: Webアプリケーション、Slack/Teamsボット、社内ポータル埋め込み)APIゲートウェイ/バックエンドUIからの質問を受け付け、RAGロジックを実行する起点となる処理層です。リトリーバー (Retriever)質問を埋め込みモデルでベクトル化し、ベクトルDBを検索して、意味的に最も関連性の高い文書のベクトルと参照元情報(Top-K個)を取得します。大規模言語モデル (LLM)リトリーバーから受け取った質問と関連文書の内容をプロンプトとして受け取り、根拠に基づいた回答を生成します。(例: Claude, GPT-4, Gemini, Llama 3など)
3. ユーザーインターフェース・周辺機能システム利用に必要なフロントエンドと管理機能です。機能概要対話履歴管理ユーザーの質問とAIの回答を保存し、セッション内で過去の会話コンテキストを維持します。参照元表示AIが回答を生成する際に使用した文書のファイル名、ページ番号、URLなどを回答と共に表示し、信頼性を高めます。評価・フィードバックユーザーが回答の満足度や正確性を評価(例: 👍/👎ボタン)できる仕組みを導入し、回答精度改善に役立てます。監査ログ・モニタリング誰が、いつ、どのような質問をし、どのような回答を得たかを記録し、利用状況の把握とセキュリティ監査に利用します。
⚙️ クラウドサービスを用いた実現例
このアーキテクチャは、特定のクラウドベンダーのフルマネージドサービスを利用することで、構築の複雑さを大幅に軽減できます。(例: AWSのAmazon Bedrock ナレッジベース、Azure AI StudioのData Connectors、Google CloudのVertex AI Searchなど)フルマネージド RAG サービスを利用すれば、「データパイプライン」「埋め込みモデル」「リトリーバー」の部分を意識することなく、データソース(S3など)を指定するだけでRAGシステムを構築できます。これにより、開発者は複雑なインフラ構築ではなく、社内ナレッジの品質向上やユーザーインターフェースの改善といった、ビジネス価値に直結する部分に注力できるようになります。